家づくりの相談を受けていると、
こんな思いが、言葉の端々から伝わってきます。
「失敗したくないんです。」
家は、安い買い物ではありません。
多くの人にとって、
一生に一度かもしれない選択です。
だからこそ、人は、
「正解」を探そうとします。
性能の数値。
断熱等級。
耐震等級。
補助金。
YouTubeの評価。
SNSの評判。
どれも、間違ってはいません。
結論から言うと、
性能は「前提」であって、「目的」ではない。
私はそう考えています。
広島で設計事務所をしている一級建築士として、
また、気密測定技能者として自分で数値を測る側にいる人間として、
性能を軽く見るつもりはまったくありません。
むしろ私の事務所では、
断熱等級6以上、気密はC値0.5以下を、
当たり前の基準にしています。
それでも、
数字だけでは、本当の安心にはたどり着けない。
そう感じています。
家づくりの話をすると、
いつの間にか「性能」の話になるようになりました。
断熱等級はいくつか。
耐震等級はどこまで確保できるか。
気密性能はどれくらいか。
光熱費はいくら下がるのか。
性能を無視して家を語ることは、
もうできない時代になりました。
でも、
ふと、こんな疑問が浮かぶことがあります。
性能を突き詰めた先に、
何があるのだろうか、と。
性能の高い家は、確かに快適です。
冬は寒くない。
夏は暑くない。
地震にも強い。
光熱費も抑えられる。
それだけを見れば、
「正解の家」と言えるのかもしれません。
しかし、
性能だけで、人は幸せになれるのでしょうか。
ある家族は、
性能の高い家に住みながら、
ほとんどリビングに集まりません。
ある家族は、
決して性能が高いとは言えない家で、
毎晩のように食卓を囲みます。
もちろん、
性能が低くていいと言いたいわけではありません。
性能とは、
暮らしを支える「条件」です。
条件が整えば、
必ず幸せになるわけではない。
しかし、
条件が整わなければ、
幸せは、簡単に壊れてしまう。
だからこそ、性能は必要なのです。
土台だけでは、暮らしは生まれない。
でも、土台がなければ、暮らしは崩れてしまう。
ある家族にとっては、
冬に寒くないことが、何よりの価値になる。
ある家族にとっては、
子どもが走り回れることが、価値になる。
ある家族にとっては、
親と安心して暮らせることが、価値になる。
性能は、
それらを支える土台にすぎません。
では、性能の先にあるものは何か。
私は、それは
「その家で、どんな時間が積み重なるか」
だと思っています。
子どもが、どこで宿題をするのか。
夫婦が、どこで会話をするのか。
家族が、どこで静けさを共有するのか。
性能では測れない、
日常の風景こそが、
家の価値を決めている。

設計とは、
壁や窓を配置する仕事ではなく、
「時間の居場所」をつくる仕事なのかもしれません。
ここで、もうひとつ大事な話があります。
家づくりをしていくなかで、
価値観の共有ということが大事になります。
設計者と施主、施主と施工者、
また、夫婦間、親子間。
さまざまな場面で価値観のぶつかり合いが起きます。
当然ですよね。
同じ人物ではありませんし、
その価値観の違いから、共有し、許容できるものを
つくり上げていくから、良い家ができます。
時々、施主の価値観どおりに家を設計、施工する人がいますが、
それは良い家とはいえません。
設計の価値観は、
デザインや、温熱、構造の在り方など。
施工の価値観は、
耐久性や、費用対効果、工程管理など。
それぞれの見識があるわけです。
その価値観を捨てて、
施主のやりたいようにつくり、
構造や温熱性能も悪く、
雨漏りして、値段が高く、かっこ悪いものができても、
それは至極当然の話です。
良い家をつくるためには、
できれば価値観を統一するのがベストですが、
共有し、許容することも大事です。
だから私は、設計者の仕事とは、
「正解を提示すること」ではなく、
「その人にとっての暮らしを、一緒に見つけること」
だと思っています。
これからの時代、
設計者に求められるのは、
センスでも、技術でもなく、
もしかすると「共感力」なのかもしれません。
目の前の図面だけでなく、
10年後の暮らしを想像できるか。
数字だけでなく、
家族の時間を想像できるか。
私は、性能の先にあるものを、
設計したいと思っています。
数字の向こう側にある、家族の時間を。
図面の外側にある、暮らしの風景を。
もし、あなたが家を建てるなら、
何を基準に選びますか。
安さでしょうか。
デザインでしょうか。
それとも、
10年後も、20年後も、
「この家でよかった」と言えること。
性能だけでなく、
その先にあるものを、
少しだけ想像してみてください。
私は、その答えを一緒に探す仕事を、
これからも続けていきたいと思っています。
最後に、よくいただく質問を3つ。
Q. 性能はどこまであれば十分ですか。
A. 私の事務所では、断熱等級6以上、気密はC値0.5以下を標準にしています。ここを前提として確保したうえで、その先の暮らしを考えます。数字の競争をするためではなく、暮らしが崩れないための土台です。
Q. 高性能な家なら、暮らしは自然に良くなりますか。
A. 条件が整えば必ず幸せになるわけではありません。冬に寒くない、夏に暑くない、というのは入口です。その家でどんな時間が積み重なるかは、居場所の考え方で決まります。
Q. 設計事務所に頼むと、施主の希望は通りにくいですか。
A. 希望をそのまま形にするのが良い家とは限りません。設計には設計の見識、施工には施工の見識があります。それをぶつけ合って、共有し、許容できるところを一緒に見つけていくのが私の仕事です。
Contents
よくある質問
家づくりで失敗しないために、まず何を決めればいいですか
性能は先に基準で決めてしまい、悩む対象から外します。私の事務所では断熱等級6以上・C値0.5以下を標準にしており、ここは施主が選ぶところではありません。残った時間と労力を「その家でどう暮らすか」に使うのが、失敗しない順番です。
断熱等級6やC値0.5は、実際にどれくらい違いますか
C値は気密測定技能者として自分で測っています。C値0.5以下だと隙間風がなく、冬の朝に暖房を切っても室温が急に落ちません。数値は快適さの保証ではなく、暮らしが崩れないための最低条件です。
設計者と意見が合わなかったら、どうなりますか
意見が合わないのは当たり前で、そこから始まります。設計にはデザインや温熱・構造の見識があり、施主には暮らしの事情があります。どちらかに従わせるのではなく、共有できるところと許容できるところを一緒に探して決めていきます。
プレゼントデザインでは、家づくりの判断材料になる話を「ほぼ日刊」で毎朝お送りしています。
性能のこと、お金のこと、現場で見てきたこと。読むのをやめるのも自由です。


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