耐震等級1で十分か。
結論から言うと、
耐震等級1は「大きな地震が来ても壊れない家」ではありません。
建築基準法が求めているのは、
大地震のときに建物がすぐには倒れず、
中にいる人が逃げる時間をつくることです。
壊れないことは、目標にしていません。
だから私は、耐震等級3を標準にしています。
等級3は、等級1の1.5倍の地震の力に耐えるように計算した家です。
私は広島で設計事務所をしている一級建築士です。
木造の住宅であれば、構造計算も自分で行っています。
この記事では、なぜ等級1では足りないと考えるのか、
そして「等級3」と書いてあっても中身が違うことがある、
という話をしたいと思います。
Contents
私の原点は、阪神淡路大震災です
1995年1月17日。
阪神淡路大震災が起きたとき、私は大学の3回生でした。
その年の夏、焼け野原になった神戸へ、
就職活動に行ったことを今も鮮明に思い出します。
暮らしを守るはずの建物が倒れ、
多くの暮らしと命が失われました。
私にとって、建築の原点の日です。
2017年にプレゼントデザインを法人化したのも、1月17日でした。
あれから30年以上が経ちました。
では、いま私たちは胸を張って言えるでしょうか。
「自分の家は、家族を守れる」と。
住宅は、長く構造の審査がされてこなかった
意外と知られていないのですが、
2025年3月まで、一般的な木造2階建ての住宅は、
建築確認で構造の審査がされていませんでした。
ビルを建てるときには、当たり前に構造計算を行います。
自動車も、事故が起きたときの安全性を考えて設計されています。
ところが住宅は、小規模で影響が少ないという理由で、
特例として構造の審査が省かれてきました。
四分割法やN値計算、接合部の決まりは、
以前から法律で定められていました。
省かれていたのは、それを確かめる審査です。
決まりを守ったかどうかを第三者が確かめないまま、
家が建てられてきたのです。
熊本地震では、
2階と1階の柱の位置がずれていたことで、
1階が押しつぶされた家がたくさんありました。
2025年4月の法改正で、
200㎡以下の平屋を除き、
住宅も構造の審査を受けることになりました。
ようやく、という思いです。
ただし、ここで求められているのは
あくまで建築基準法を満たすこと、つまり耐震等級1です。
いまもなお、許容応力度計算のような正確な構造計算をしなくても、
家を建てることはできます。
耐震等級1と2と3は、何が違うのか
耐震等級は1から3まであります。
等級1が建築基準法の最低基準。
等級2はその1.25倍、
等級3は1.5倍の地震の力に耐えるように設計します。
熊本地震では、耐震等級3の家はほとんど無傷だったことが分かっています。
国の委員会が益城町の中心部を調べた報告では、
等級3の16棟のうち14棟が無被害、
残りの2棟も軽微または小破の被害でした。
一方で、新築に求められる最低基準は、
今も耐震等級1のままです。
そして、建築基準法の家は、
大地震で壊れることが前提になっています。
壊れたあとの暮らしを支えるのは、地震保険かもしれません。
ですが地震保険は、火災保険の金額の半分までしか掛けられません。
家が全壊しても、建て直す費用がまるごと出るわけではないのです。
火災保険と家の性能の関係は、
省令準耐火と火災保険の記事にも書いています。
同じ「耐震等級3」でも、前提が違うことがある
構造計算には、「地域地震係数」というものがあります。
地震が起きる頻度が少ないとされる地域では、
地震の力を割り引いて計算してよい、という決まりです。
この割り引きが使えるのは、
許容応力度計算で構造を確かめるときです。
壁量計算で等級3を確かめる場合は、割り引きません。
広島の地域地震係数は0.9です。
すると、耐震等級2は
1.25×0.9=1.125倍。
耐震等級3は
1.5×0.9=1.35倍になります。
同じ「耐震等級3」と書いてあっても、
地震の力を1割引きで計算している家があるということです。
ちなみに沖縄県は0.7。
30%も耐震性を落とせます。
なぜこんな決まりがあるのか。
もとは地震が起きる「頻度」の少なさから来ています。
けれど耐震性は、頻度で考えるものではありません。
一生に1回来るかもしれない大きな地震に、
どう備えるかの話です。
プレゼントデザインでは、
広島でも割り引かず、1.0で計算しています。
あなたの家は、いくらで計算されているでしょうか。
見積や図面の打合せのときに、
一度聞いてみてください。
耐震等級3の家で基礎がどうなっているかは、
耐震等級3の基礎の記事にまとめています。
地震は、一生に一回とは限らない
地震は、生涯に一回だけ来るとは限りません。
熊本地震では、震度7が2回来ました。
新築のときに十分な耐震性があっても、
1回目で傷んだ家が、2回目に耐えられるとは限りません。
そして、建物は年数とともに劣化します。
断熱や劣化対策の性能が低い家は、
壁の中や土台が傷みやすく、
新築当初の耐震性を保てなくなります。
能登半島地震で古い家が多く壊れたのも、
そういうことだと思います。
人間も、子どもは転んでもけがをしにくいですが、
年を重ねると簡単に骨を折ります。
人は体を鍛えることができますが、
建物はそうはいきません。
だから、新築のときの耐震性と、
それができるだけ損なわれないための長持ちの性能。
この両方が要ります。
実は一番大事なのは、長持ちの性能かもしれません。

あなたの家が倒れた先に、誰がいるか
高齢の方に耐震改修をご提案すると、
「私が生きている時間は短いので」
と言われることがあります。
その気持ちも理解できます。
しかし、2018年の大阪の地震では、
ブロック塀が倒れて小学生の命が失われました。
大地震のたびに、倒れた建物が道をふさぎ、
消防車や救急車が入れなくなる現実が繰り返されています。
あなたの家が倒れた先に、
誰かの子どもがいるかもしれません。
あなたの大切な人を運ぶ救急車が、
そこを通れなくなるかもしれません。
耐震性は、自分の家族だけのものではなく、
その街の暮らしを守るものでもあります。
地震が来ても、暮らしが続くように
正直に言えば、津波に勝てる家をつくるのは不可能です。
東日本大震災の半年後に被災地を見て、そう思いました。
だから土地を選べるなら、
津波の来ない場所を選んでほしいと思います。
一方で、地震そのものへの対策は、
それほど難しくありません。
ちゃんと構造計算を行い、
耐震等級を確かめることです。
地震が本当に起きるか分からないから、
耐震等級を考えないのではなく、
いつ地震が起きても暮らしが続くように、
耐震等級を考えてください。
これから家を建てる方は、
その家の耐震等級と、何で計算しているかを確かめること。
いまの家にお住まいの方は、
耐震診断について少し調べてみること。
そして一度、家族と地震の話をしてみること。
私はぶれずに、耐震等級3の家をつくり続けます。
地震で人が亡くならない未来だけでなく、
地震のあとも暮らしが続く未来を信じて。
よくある質問
耐震等級1で十分ですか?
耐震等級1は建築基準法の最低基準で、大地震のときに倒れず命を守ることが目標です。壊れないことは目標にしていません。地震のあとも住み続けたいなら、等級1の1.5倍の地震の力に耐えるように計算する耐震等級3をすすめます。
耐震等級3なら、どの家も同じ強さですか?
同じとは限りません。許容応力度計算では地域地震係数で地震の力を割り引くことができ、広島は0.9なので、等級3でも実際には1.35倍で計算している家があります。何で計算したか、係数をいくつにしたかを、設計者に確かめてください。
2025年4月の法改正で、住宅の耐震性は上がりましたか?
2階建てと200㎡を超える平屋の木造住宅も、構造の審査を受けるようになりました。ただ、求められているのは建築基準法の水準、つまり耐震等級1のままです。等級3にするかどうかは、建てる人と設計者が決めることです。
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